なかみせvol.55 時を超えて人をつなぐ骨董店「ヴォーグ」
昭和レトロから仏教美術まで選び抜かれた品が並ぶ

中山法華経寺へと続く参道と国道が交わる場所に佇む「ヴォーグ」は、今年で創業36年を迎える骨董店です。元々は店主の奥様のご実家があった場所で営業していましたが、ご縁があって現在の場所に移り、新たな歴史を刻んでいます。

店名の「ヴォーグ」は、奥様のご両親が営んでいた洋装店の名前から受け継がれたもの。その看板とマークに込められた歴史と品物への愛情が、「骨董屋ヴォーグ」という名に今も息づいています。
店内に並ぶのは、店主の石塚康之さんが長年の経験で培った確かな「眼」で選び抜かれた骨董品ばかり。創業当初は掛け時計が中心でしたが、時代の移り変わりとともに仏教美術品から幅広いジャンルの品々を扱うようになりました。

特に興味深いのは、若い世代の骨董商の台頭により、これまで骨董の世界では注目されなかった昭和のおもちゃや雑貨、古着などに新たな価値が見出されていること。店主は、「私たちが珍重した明治時代のものよりも、若い人たちが子どもの頃に触れた昭和の品物に興味を持つのは、むしろ教えられることが多い」と語ります。

「骨董の魅力は、品物そのものだけでなく、売る人の人柄や、その品物にまつわる物語を知ることで、より深く感じられる」と店主は言います。インターネット通販が主流の現代において、「ヴォーグ」では実際に品物を手に取り、店主との会話を通してその背景にある歴史や物語に触れることができます。それは単なる買い物ではなく、人と人との温かい交流が生まれる貴重な時間となるでしょう。
「ヴォーグ」の店主は、中山法華経寺で春と秋に開催される骨董市の実行委員長も務めています。この骨董市は、近隣地域の人々が気軽に骨董品に触れる良い機会となっています。近年では海外からの観光客も増え、日本の古いものへの関心の高まりを感じているそうです。店主は、この骨董市を通じて「若い世代の方々にも古いものに目を向け、その価値や魅力を再発見してほしい」と願っています。

中山地区を訪れる際は、ぜひ「ヴォーグ」に立ち寄ってみてください。きっと、素敵な出会いと心惹かれる一点が見つかるはずです。
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店主の石塚康之さんにインタビュー

――「ヴォーグ」という店名は奥様のご実家のお店の名前ということですね。
石塚さん:ずいぶん昔のことですが、妻の実家が中山商店会で洋装店を営んでいましてね。現在の松軒中華食堂のあたりだったでしょうか。地域の人たちがオーダーメイドの洋服を注文するような、割と人気のあったお店でした。昔から住んでいる人なら知ってるんじゃないかな。
そこから千葉銀行の前の駐車場のあるあたりに移転して、しばらく洋装店を続けていました。周りに床屋さんや本屋さん、電気屋さんなどがありましたね。
私は長年海外で仕事を続けていたのですが、定年を前にして妻が先に日本の戻ることになりました。私が収集していた時計などのアンティーク品があったので、すでに閉じていた妻の実家の店で骨董店をやってはどうかという話になり、妻が店を開いたのが最初です。1989年のことでした。
私が定年退職となって日本に戻り、妻の骨董店を手伝っているうちに私自身がすっかりハマってしまいました。実家にあった「ヴォーグ」の看板が気に入ってそのまま使ったのですが、フランス語で「流行」を意味する「ヴォーグ」という店名は、洋装店ならともかく骨董店の名前にしてはどうなんだと骨董屋仲間にからかわれたもんです。その後、妙円寺のご住職に声をかけられて、今の店へと移転したのが2002年です。

――骨董店では、どんなものに関心が寄せられるのでしょうか。
石塚さん:「骨董」というのは人生のアクセサリーです。あってもなくてもいいけど、身近にあれば生活が潤うというようなものですから、時代によって大きく変わります。明治維新の時には古いものはだめだとなって、名刀をはじめ日本の美術品が海外に流出しました。それが日露戦争に勝って国力がついてくると、個人でも家を持てるようになって骨董品が見直されるようになるんです。
その後、関東大震災や昭和恐慌、第二次大戦などのたびに骨董品の人気が上がったり下がったりして、戦後に経済が復興してくると再び骨董ブームがやってきます。花森安治の『暮らしの手帳』で高峰秀子や池部良の蕎麦猪口(そばちょこ)が紹介されたりして、有田焼、唐津焼などの焼き物に脚光が寄せられます。
それが阪神淡路大震災やその後の災害以降、焼き物に対する関心が急速に冷えるんです。そこに中国の業者が高価な焼き物を安く大量に仕入れていきました。美術品として価値あるものが流出したんです。今は中国でもブームが去ったのか、一段落していますね。
最近目につくのが昭和レトロの品物ですね。私たちが江戸時代や明治時代のものを扱ってきたように今の人たちは昭和のものに惹かれるようです。

――こんごは?
石塚さん:先日、東京国際フォーラムで開かれた「大江戸骨董市」に出店したんです。そのお客様のほとんどが外国の方で、出店するとけっこう売れます。買ってくれる人の90パーセントは外国の方じゃないかな。芸術性の高い骨董品に興味を持つ日本人が減っている、特に若い層が減っていると感じています。
若い世代の骨董店も増え、ヨーロッパなどのアンティークを仕入れて販売しています。若い人たちが新しいセンスで出店するのはいいことで、一方、私たち年寄りも長年の経験や眼があるので、お互いに協力していけたらと思っています。
私が実行委員長になっている「中山骨董市」も、インバウンドのお客様に知ってもらうことが大切じゃないかと思っています。中山法華経寺の雰囲気は海外の人にも魅力的なところですからね。将来的には、その魅力を伝えていくため、SNSを活用した情報発信など、新たな取り組みをしていかなくてはいけません。
骨董は、単なる古い物ではありません。そこには、人々の暮らしや文化、歴史が凝縮されています。その魅力を、これからも伝えていきたいですね。 (了)


2025年4月15日の「中山骨董市」
「骨董屋ヴォーグ」
住所:船橋市本中山1-8-10
電話:090-1264-5482
営業:10時半頃~17時頃
定休日:不定休
